トップページ>>ニュースレター>>20号
ニュースレター

第20号   山根由紀       「こころの原風景」

その木影は、ファインダーを覗いた瞬間、
 わたしの視覚に捕らえられた。

 九州の山間を旅行中、ふと目を惹いた建物に
 車を停めてシャッターを切った。

 こんな小さな町だから、きっと子どもの数も少ないに違いない。
 これから先、何人の生徒たちがこの校舎で過ごし、
 この風景を胸に焼きつけて、巣立っていくのだろう。

 傾きかけた午後の日差しに長くのびた影が前景となり、
 新しい校舎が青空に一層映える。

 建築家は「演出家」
 そんな言葉が頭に浮かんだ。

 この校舎も、そして木も、すばらしい演出家を得たようだ。
 これからもずっと、子どもたちの日常を彩っていくことだろう。 


鉄筋コンクリートの歴史を学ぶ ―下関の近代化遺産を活かしたまちづくり―  まちのよそおい・ネットワーク  世話人 岩田 真次

「ものとものとを継ぎあわすもの」という意味のギリシャ語を語源にもつ セメントは、太古の時代からギリシャ、ローマの時代にかけて用いられ、そ の原料は主に石灰やセッコウなど、そして火山灰を石灰に混ぜたものです。 その後、粘土と石灰石が主要な原料であるらしいことが分かって、ようやく 1824年のアスプディン(Joseph Aspdin、英・レンガ工)によるポルトラ ンドセメントの発明となりました。わが国では大久保利通らに随行して外国 のセメントを視察した宇都宮三郎の努力により、1875年(明治8年)はじめ て東京都江東区深川清澄町の官営セメント製造所でポルトランドセメントが 製造され、1881年(明治14年5月)には山口県厚狭郡西須恵村小野田に笠井 順八らがわが国最初の民間セメント工場(小野田セメントの前身)を創立し ております。  セメントに砂、砂利そして水を加えて練り混ぜて硬化させたコンクリート は当初コンクリートブロックとして護岸などに使われており、1897年(明治 30年)北海道小樽築港事務所長広井勇はコンクリートブロックを積んだ防波 堤を建設しています。ところで、宮崎県日南海岸に1884年(明治17年)点灯 の日本最古のコンクリート造灯台(ブロック造?)といわれる鞍埼灯台があ ります。また、下関市阿弥陀町には1914年(大正3年)築造の無筋コンクリ ート造船渠(写真1)が現存しています。



 圧縮に強いコンクリートと引張りに強い鉄筋を組み合わせた鉄筋コンクリ ート造(RC造)は、1880年代後半にケーネン(E. M. Koenen、独)が引 張り鉄筋を考案し、1892年にアネビク(F. Hennebique、仏)がせん断補強 筋を発明して技術的に確立され発展しました。このアネビクが1905年に架設 したRC橋(三径間連続ラーメン桁橋、スパン長55m)がベルギー・リエ ージュのオルラス川に現存しています。また、最初に打ち放しコンクリート 仕上げの技法を建築に持ち込んだオーギュスト・ペレ(仏)は1902年パリに RC造の集合住宅を設計しており、築後100年近い今日でも見応えのある外 観を有しております。この技法が弟子のル・コルビュジエ(仏)に引き継が れて、後に有名なRC造のロンシャン教会を誕生させました。「鉄筋コンク リート」の名称は広井勇が1903年(明治36年)論文の中で最初に用いたとい われます。わが国初期のRC造は1903年(明治36年)琵琶湖疎水路上架橋 (橋長7.3m)、1904年(明治37年)佐世保軍港内の施設などであり、1909 年(明治42年)には高さ45mのRC造煙突が海軍土木技術者で柔構造の提 唱者である真島健三郎によって完成されています。普通の建物に使われるよ うになったのは1911年(明治44年)の三井物産横浜支店(デザイン・遠藤於 菟、構造・佐野利器:剛構造の提唱者)が最初で、わが国初のオールRC造 4階建(写真2)です。


そしてわずか3年後の1914年(大正3年)には下関市南部町に西日本最古の RC造4階建の秋田商会(写真3)が建設されています。


 ところで余談ですが、三井物産横浜支店のRC造4階建は横浜という場所 からして既に解体されているのでは。すると下関の秋田商会がわが国最古の RC造建物ではないかと密かに期待して三井物産横浜支店にTELしたとこ ろ、当時のRC造4階建は今でも残っており使っていますよとのこと。がっ かり。それでもあきらめきれずに後日現地に行って確認したところ、やはり 立派に現存かつ使用中。さすがに三井さんでした。山下公園近くにあるこの ような近代化遺産を保存しながら、新旧の街並みと調和させて整備しつつあ る横浜市の都市再開発のあり方は大いに見習うべきではないでしょうか。  1923年(大正12年)の関東大震災は、アメリカ式オフィスビルの本命であ る鉄骨造に多大の被害を生じさせ、震災復興に当たっては鉄骨造は使われな くなり、昭和戦前を通して鉄筋コンクリートが主流になります。この震災の 年に宇部セメントが創業。1927年(昭和2年)復興橋梁として東京JRお茶 の水駅近くに今も現存するRC造の聖橋(写真4)が竣工しており、設計者 の山田守は1923年(大正12年)RC造3階建下関市庁舎第1別館の設計にも 関わったのでは?といわれております。震災後は下関市においても主要な建 物は、RC造がそれまでのレンガ造、石造、鉄骨造にかわって主流を占める ようになります。


このように鉄筋コンクリートの歴史を振り返ってみると、現存する建造物に は大きく2つの原則があるように思われます。一つは鉄筋コンクリートには 其材料と様式がしっくり合ったデザインがあるにちがいないと確信した遠藤 於菟の「意匠の適材適所」の原則であり、もう一つは材料の力学的性質を十 分把握してバランスよく適用することを主張した佐野利器の「構造の適材適 所」の原則です。洋の東西を問わず100年近く経過した今日もなお現存する RC造の建造物は、例外なくこの「意匠と構造の両面でバランスのとれた適 材適所」の原則が貫かれています。  この観点で下関の近代化遺産をとらえると、築後84年の秋田商会が現存し ている理由としては、RC造の躯体の表面が重厚なデザインの石貼りとタイ ル貼りで覆われているため海岸に近い場所にありながら塩害、雨水などの影 響が少ないこと、躯体には大きい開口部が少なく壁量が確保されており、平 面・立面的に対称型で構造上安定していることなどにより、躯体の劣化が進 んでいないことが考えられます。同じ時期に築造された下関市阿弥陀町の無 筋コンクリート造船渠は、海水による劣化の一番厳しい条件といわれる汐の 干満をうける場所でありながら表面の劣化は認められるものの今日も立派に 現存しています。当時のコンクリートは施工する場合、コンクリートの搬送 方法が軟練りを要求するポンプ打設ではなく、使用水量の少ない硬練りのコ ンクリートを手押し車で運んで、しかも硬練りだけに十分な突き固めが必要 であったため、結果としてコンクリートの水セメント比が小さく押さえられ て耐久性が向上したのではないかと推察されます。  いずれにしても、下関の近代化遺産の中にはわが国でも最古に近いRC造 の建造物が現存しているわけですから、今後の保存にあたっては先ず綿密か つ科学的な調査とともに、このような建造物に対する先達の見識と構築に到 る歴史的背景を十分学ぶことが重要であると考えます。また、その活用方法 については、それぞれの建造物のデザインと材料・構造の歴史的変遷がわか る下関近代化遺産歴史探訪の歩行見学ルートを整備することを提案します。 建造物が構築された経緯が分かり易く解説された資料を整備するとともに、 最新の補修技術を駆使して用途に応じて実用に供されることを期待します。 これによって、東日本の横浜と同様に、西日本の海の玄関である下関のまち なみと人々の営みの歴史が再現され、地元及びこの地を訪れる人々の将来に わたる近代化遺産保存の意識がさらに高められるのではないでしょうか。 「参考文献」 1)藤原忠司ほか:コンクリートのはなしT・U、技報堂出版、1993年6月 2)土木学会:土木工学ハンドブック、技報堂出版、1964年1月 3)藤森照信:日本の近代建築(下)、岩波新書、1993年11月 4)宇部興産:宇部セメントの50年、ダイヤモンド社、1974年12月 5)近藤泰夫、坂静雄:コンクリート工学ハンドブック、朝倉書店、1965年10月


“98手作り景観賞”審査会等のご案内  
 次のとおり審査会及び現地審査会を開催させていただきます。ご多忙の ところ恐れ入りますが、ご参加を賜わりますよう、よろしくお願いします。 応募作品が皆様の審査をお待ちしています。
○ 審査会○  次の7つの会場で行っています。どの会場でも結構ですので、ご都合の よい会場、ご都合の良い時間にお越しください。
 なお、今年度も“まちのよそおい”に関心のある方であればどなたでも 審査できるようになっていますので、多くの方々に声を掛ていただき、審 査会場へお越しくださいますようお願いします。

開催地
会     場
開  催  日
下 関 シーモール・泉の広場(2F) 9月27日(日) 10:00〜 19:00
長 門 長門コミュニティタウン「ウェーブ」 9月27日(日) 10:00〜 18:00
田町イベントホール 10月3日(土) 10:30〜 16:30
小野田 小野田市立体育館
10月10日(土)   10:00〜 16:00
  11日(日)   10:00〜 16:00
山 口 多目的広場(一の坂川沿い)
10月10日(土)   10:00〜 16:00
    11日(日)   10:00〜 16:00
下 松 ザ・モール周南 海の広場 10月17日(土) 10:30〜 16:30
岩 国 岩国郵便局 10月24日(土) 10:30〜16:00

(注1)小野田会場は、「住宅フェア」の一環として行います。
(注2)山口会場は、「アートふる山口」の一環として行います。
(注3)終了時刻は会場により変更されることもありますので、ご注意ください。審査された方の中から抽選で50名様にオリジナルテレホンカード(50度1枚)を差し 上げます。(抽選の結果は、賞品の発送をもってかえさせていただきます。)  奮ってご審査ください。審査は、展示されたパネル等から心地よいと感じられる 作品を3点選ん で投票してください。各会場の投票結果を集計して、上位から数 点を「優秀賞」とします。 ○ 現地調査○   「世話人賞」の審査を兼ねて、応募作品の現地調査を行います。どなたでも 参加できます。多く の方のご参加をお待ちしています。(準備の都合がありま すので、参加される方は事務局まで連絡ください。)
・実施日:県西部…10月24日(土) (責任者:沼田)
県東部…10月25日(日) (責任者:山崎)
・集合会場:山口芸術短期大学
・出発時刻:9:00 (時間厳守をお願いします)
※「98手作り景観賞・交流会&表彰式」を、11月22日(日)13時から、山口芸 術短期大学・視聴覚室で開催します。(学園祭の一環として行います。)こ ちらの方へも、ぜひご参加ください。

編・集・後・記
 今回も何とか審査会を開催できる運びとなりました。これもひとえに会員各位 と各建築士会支部・青年部のご協力の賜 物です。ありがとうございました。後 は、より多くの市民の方々の参加を祈るばかりです。
 さて、市民が行う自由で自主した活動を発展させるための「山口NPOサポー トネットワーク」の設立準備が本格的に 始まりました。12月5日(土)に設立 総会が開催されることになっています。まちのよそおい・ネットワークも、これ か らのより積極的な活動へと展開するために、NPO法人の認証を目指したと 考えています。ミーティングで議論した結果 を改めて会員の皆様に提起させて いただきたと考えています。(東)