トップページ>>ニュースレター>>15号
ニュースレター

ニュースレター 第15号

私の感じたここちよい景観〈県外編〉…イーハトープへようこそ(入江直子)
“96手作り景観賞”の審査結果
こんな本はいかが…「トトロの住む家」
“96手作り景観賞”を終えて

私の感じたここちよい景観〈県外編〉…イーハトープへようこそ(岩手県花巻市)    入江直子
 “宮澤賢治・生誕100年”で賑わう「花巻市」を訪れた。
 賢治がよく散策したという胡四王山の上に記念館があり、そこからは、彼がイーハトープ(理想郷)と呼んだ岩手のまちがよく見え、遠くには北上川も光っていた。
 その、小高い丘のような胡四王山の森を下っていくと、すっかり色づいた木立ちの間にコンクリート打ち放しの精悍な建物があらわれた。
 建物のアプローチへ続く階段を降りていくのと並行して、さらさらと水が流れ、その流れの先には、穏やかな秋の山里の風景が続いている。
 コンクリート打ち放しの建物は、都会的で洗練された、クールでおしゃれなイメージで、私は単純に好きだった。しかし、それが東北の山里の風景にこんなにもすっぽりと馴染んでしまうとは少し驚いた。  空間と自然と素材(建物)と時間は、私たちに意外な展開を見せてくれる。それぞれのバランスが微妙に合った時に、ここちよい景観が生まれるのかもしれない。

 それは、「イーハトープ館」。宮澤賢治の作品を紹介するだけでなく、研究者や愛読者達の情報拠点になっていた。

“96手作り景観賞”の審査結果
   “96手作り景観賞”の審査の概要を報告させていただきます。
7月10日から9月10日まで“96手作り景観賞”の審査対象施設を公募しましたところ、「たてもの」部門28点の応募がありました。これらの応募作品をパネル化し、9月20日から10月20日にかけて、岩国を皮切りに県下8つの会場で審査会を開催しました。会場内に掲示した応募作品パネルを審査員の方々に見てもらい、3点選んでいただきました。1,051名に上る市民の方々による審査の結果、上位5施設を「優秀賞」としました。受賞した施設は次頁のとおりですが、若干のコメントを申し上げます。
「キワ・ラ・ビーチ」は、海辺の施設として、リゾート気分を味わえる使いやすいスケール感を持った建物といった点が評価されたものと思われます。「大島町営広屋団地」は、伝統的工法を取り入れた木造の公営住宅で、小屋根ののった寄棟屋根の連続が集落的な景観をつくり、周囲の戸建住宅地の中にうまく溶け込んでいることが評価されたものと考えられます。「海峡メッセ下関」は、海峡のまち下関のランドマークとしての役割を果たしており、ライトアップによって昼とは違った表情を見せ、今までにない景観を創り出していることが評価されたものと思われます。
「山口市立仁保中学校」は、筋交いと漆喰で壁面デザインしたかっての木造校舎の記憶性を新しい校舎にとどめていることが評価されたものと考えられます。「山口県立大学 看護学部、講堂」は、傾斜地の地形に合わせた配置計画が、全体のバランスの良さを感じさせ、緑の景観に配慮し、質感のある色相を押さえたレンガタイルをはじめ、材料の色合いがうまく調和していることが評価されたものと思われます。
さて、世話人が現地を調査して推薦する施設に贈る「世話人賞」として4施設選定させていただきました。これは、現地を見ない審査でよいのか、グループとしての主体性はどこにあるのかといったご批判に応えて昨年度より実施しているものです。県下を2つのブロックに分け世話人の有志が現地見学を行い、世話人で議論した結果、4施設選定させていただきました。それぞれの施設の詳しい推薦理由は活動報告書で報告させていただきます。
「株式会社中電工湯面保養所」は、田園地帯の中に屋根の水平線と壁の垂直性のバランスが、シャープな陰影をつくり、洗練されたデザインとなっています。外壁には、質感を持つ材料としての打放コンクリート、タイルが使われ周囲の景観にうまく溶け込んでいます。「大島町営広屋団地」は、上記にさらに付け加えると、中央にヒューマン的なスケールで路地空間が設けられ、向かい合いながらの生活が、コミュニティの復活を促しています。「萩市立山田保育園」は、歴史的景観を意識させる瓦屋根、土塗り壁、漆喰調の塗装など風土になじむ素材の使用と柔らかい色合いが萩らしさを十分演出しています。また、調和の取れた建物全体のバランスと子どものためにスケール感がうまく押さえられており、デザイン的なレベルの高さを感じます。「吉川史料館」は、歴史的地区の景観として、建物全体のボリュームをうまく押さえています。漆喰の美しさが、清楚なイメージを創り出し、回廊からのアプローチは、ドラマチィクな雰囲気を盛り立てています。
 さて、本年度の場合も、「優秀賞」や「世話人賞」を受賞した作品は大きく2つのタイプに分けられるのではないかと思います。1つは、地域のイメージを大切にしながら以前から存在していたかのように感じさせる施設です。もう1つは、従来の風景にはないものを導入することによって新たな景観を創造しようとするものです。この自然と人工とが織りなすハーモニーを多くの市民の方が心地よいと感じられたようです。このような市民に心地よい安らぎと刺激を与えてくれる施設が増えることを私たちは望んでいます。
96手作り景観賞・審査結果・施設名称・施主・設計者・施工者一覧

 《優秀賞》  応募作品数…28点  

    施設名称:キワ・ラ・ビーチ(宇部市)
    施主:宇部市
    設計者:宇部市建築課
    施工者:(株)山下工務店

    施設名称:大島町営広屋団地(大島町)
    施主:大島町
    設計者:(株)現代計画研究所
    施工者:大五建設共同企業体

    施設名称:海峡メッセ下関(下関市)
    施主:山口県
    設計者:エヌ・ティ・ティファシリティーズ
    施工者:竹中工務店・熊谷組・鴻池組・安成工務店共同企業体

    施設名称:山口市立仁保中学校(山口市)
    施主:山口市
    設計者:山口市建築課 今井徹也建築設計事務所
    施工者:鴻城土建工業・池田建設共同企業体

    施設名称:山口県立大学 看護学部、講堂(山口市)
    施主:山口県
    設計者:山口県建築課 日本設計
    施工者:西松建設・磯部建設共同企業体 山口建設・山陽建設共同企業体
        新光産業・中村建設共同企業体

 《世話人賞》

    施設名称:(株)中電工湯免保養所(三隅町)
    施主:(株)中電工
    設計者:(株)中電工 清水建設一級建築士事務所
    施工者:清水建設(株)

    施設名称:大島町営広屋団地(大島町)
    施主:大島町
    設計者:(株)現代計画研究所
    施工者:大五建設共同企業体

    施設名称:萩市立山田保育園(萩市)
    施主:萩市
    設計者:(有)堀設計事務所 萩市建築課
    施工者:協和建設工業(株)

    施設名称:吉川史料館(岩国市)
    施主:吉川報効会
    設計者:鹿島設計エンジニアリング総事業本部
    施工者:鹿島建設(株)広島支店山口東部営業所
こんな本はいかが    山根由紀
「トトロの住む家」 (スケッチ=宮崎駿 写真=和田久士  オール・カラー 77頁 朝日新聞社 定価2,150円)
 膝に眠る猫を抱いて、おばあちゃんがこっくりこっくり居眠りしているような縁側に憧れていました。  ガタガタと音を立てて引き戸を開け放すと、はめ込みガラスのある障子の向こうにはちゃぶ台とペチャンコの座布団があって・・・。
 中庭に降りる靴脱ぎ石の上には、マンガの絵柄のズック靴。
 おじいちゃんとおばあちゃんと若い夫婦と小さな女の子。
 こんな風景はもう昔の話と思っていましたが、まだまだ残っているんですね。
 それも、東京に。
 この本の中に紹介される7つの家は、そんなわたしの憧れを一層強くするかのように昭和初期のたたずまいを見せて、今なお住む人に守られ続けています。

   名作「となりのトトロ」の原作者、宮崎 駿さんが自分の足で見つけた家々の素朴なスケッチと和田久士氏の写真で構成された、眺めるだけでも楽しくなる本です。
 住環境の景観と住まう人の意識について、改めて考えさせられる一冊でした。
 とても読みやすい一般向けの内容ですので、大きな子どもさんでも楽しめるでしょう。是非、ご家族でどうぞ。

“96手作り景観賞”を終えて
 今年度も、多くの皆様のさまざまな形でのご協力により、なんとか“96手作り景観賞”を終了することができました。厚くお礼申し上げます。資金的な問題、マンパワーの問題、応募点数の問題などから、2年に1回、あるいは3年に1回といった形での開催を検討しています。
それに、できたものの評価だけでなく、いいものを造るために何らかの形で関わる活動へと展開する必要があるのではないかとも感じています。そのためには造られる過程を大事にしなければなりません。
ミーティングの中で、こんな話もありました。補正予算の消化ために十分検討されることもなく学校が建設されることになってしました。これからの時代を担う子どもたちが生活する学校建築に、こんなことが許されるのだろうかという問題提起です。皆さんはどう思われますか。ご意見をお待ちしています。(A.K.)